JASPEHR Implementation Guide
0.5.5 - draft

JASPEHR Implementation Guide - Local Development build (v0.5.5). See the Directory of published versions

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Official URL: http://www.hosp.ncgm.go.jp/JASPEHR/fhir/ImplementationGuide/jaspehr Version: 0.5.5
Draft as of 2023-03-09 Computable Name: JaspehrImplementationGuide

背景と目的

医学研究や病院運用の検討において、病院の電子カルテシステムに保存されたデータは重要な研究材料である。複数の病院からデータを収集できれば、より多くの知見を得られることが期待される。しかし、病院が異なれば利用している電子カルテシステムも異なる。電子カルテシステムの違いに起因するデータ形式・構造の違いが、データ収集における課題となっている。

電子カルテシステムで医療情報収集のために利用される機能として、”テンプレートシステム” がある。情報を収集したい人が、回答してほしい質問(例:患者の身長・体重・病歴等)を盛り込んだテンプレートを作成し、電子カルテシステムに登録する。システムのエンドユーザ(例:医師・看護師)がそのテンプレートに沿って情報を入力すると、電子カルテシステムのデータベースにデータが蓄積される。テンプレートを用いて入力されたデータは構造化されるため、データ収集において有用なツールである。

本プロジェクトでは、冒頭に述べた課題を解決するため、標準規格に基づいた“共通のテンプレートマスタ”を配布し、自動的に各社のテンプレートシステム形式に変換、入力されたデータを収集するという、一連の仕組みの検討を行っている。標準規格としては HL7 International を中心に策定された FHIR を採用する。FHIR は現在、国内外で活発に検討・活用が進められており、かつ情報システムに広く採用されている REST アーキテクチャパターンの活用を念頭に策定されているため、システムとの親和性が高く、今後普及が期待される標準規格である。

FHIR は大きく分けて2つの構成要素に分けられる。1つは交換されるデータの様式を定めた “resource” であり、もう1つは resource 交換における “仕様” である。FHIR の基本となる resource や仕様は、幅広いシチュエーションで利用されることを前提に定められているため、実際の利用にあたっては FHIR のベース resource 等を基に、当事者間で Profiling を行う必要がある。本文書には、JAPHER プロジェクトでの運用に向けて行った Profiling の成果物、およびその検討プロセスを記載した。

本 Implementation Guide のスコープ

JASPEHR プロジェクトでは、以下のような運用フローが想定されている。

work flow


図1 想定運用フロー

  1. 本検討で策定した Profile に基づき、情報収集用標準テンプレートとして Questionnaire を作成する。現時点では手書きで作成するか、インターネット上で利用可能なツールを部分的に用いて作成することが想定される。将来的には、専用のユーザーインターフェースを有したアプリケーションで Questionnaire を作成できるようにする、既存の電子カルテテンプレートを Questionnaire に変換するアプリケーションを整備する等の対応が想定される。
  2. 作成した Questionnaire を、各参加病院に頒布する。現時点では、メールに添付する等、人手が介在した方法で頒布する必要があるが、将来的には FHIR サーバ間で Questionnaire resource をやり取りできる仕組みの構築が望ましい。
  3. 各病院で、Questionnaire を電子カルテシステムのテンプレート形式に変換し、電子カルテに登録する。そのためには、電子カルテベンダ各社は、本検討で作成した Profile に基づく Questionnaire を、それぞれのテンプレート形式に変換するプログラムを作成する必要がある。電子カルテテンプレート機能を利用せず、Questionnaire そのものをフォームとして描画し、ユーザーからの入力を受け付けて QuestionnaireResponse を作成する場合は、電子カルテテンプレートへの変換は不要となる。
  4. エンドユーザー(例:医師・看護師)が、Questionnaire に基づいたフォームを入力する。電子カルテで入力を行う場合は、入力結果が既存の電子カルテデータベースに保存される。
  5. 記入されたデータが電子カルテデータベースに保存されている場合、そのデータをQuestionnaireResponse 形式に変換する。電子カルテベンダ各社は、各テンプレートシステムへの入力値を QuestionnaireResponse へ変換するアプリケーションの開発が必要になる。3. で Questionnaire を電子カルテテンプレート形式に変換せず、4. で直接 QuestionnaireResponse を作成する場合、この工程は不要。
  6. QuestionnnaireResponse を匿名化後、各病院から収集する。現状では2. 同様、人手により収集する必要があるが、将来的には FHIR サーバ間で QustionnaireResponse resource を Validation しつつやりとりできる仕組みの構築が望ましい。その際、個人情報の匿名化機能の実装についても検討が必要となる。


2021 年度作業範囲のスコープ

2021 年度終了時点では、上記の運用フローのうち、1. で使用する Questionnaire の Profiling までを実施する。この Profile に基づいた Questionnaire の電子カルテテンプレートへの変換、及びそのテンプレートへの入力値の QuestionnaireResponse への変換ができれば、人手が介在した形ではあるが最低限運用を開始する事ができる。NCGM および NCVC では、先行してこの範囲までを 2021 年度実施する。


今後必要になる作業

JASPEHR プロジェクトを本格的に運用開始するにあたり、下記の作業が必要になると想定される。

運用を円滑に進めるための検討事項
  • Profile に基づいた Quesitionnaire 作成方法の整備。Questionnaire 作成用アプリケーション、もしくは電子カルテのテンプレートを Questionnaire に変換するアプリケーションの開発が想定される。作成した Questionnaire の Validation も行えるようにすることが望ましい。オープンソースプロジェクトで作成されたものが複数存在するため、それらを JASPEHR 用に流用する事も検討すべきである。
  • Questionnaire を、本プロジェクト参加各施設の電子カルテテンプレート形式に変換するプログラムの開発。同時に、電子カルテテンプレートに入力された内容を、QuestionnaireResponse として抽出するプログラムの開発。もしくは、Questionnaire をフォームとして描画し、QuestionnaireResponse を作成するアプリケーションの開発。この方法を実施する場合は、 SDC に準拠した方式が望ましい。
  • Questionnaire 及び QuestionnaireResponse リソースの頒布・収集方法の整備。将来的には、各参加施設に設置した FHIR サーバと、中央に設置した FHIR サーバを専用回線等で接続し、RESTful な方式で通信することが想定される。具体的には、FHIR でも規定されている Subscription 方式での情報共有が考えられる。ただし、その際はアクセス権限の管理・データの匿名化・認証方式等、セキュリティ面で十分な検討を行うことが必要である。
  • 本 IG 執筆中に、SDC の 3.0.0 版が公開された。新たに盛り込まれた内容も踏まえつつ、JASPEHR の運用を具体化していくにあたっては、2021 年度の作業で作成した Profile をさらに修正していくことも必要になると想定される。

データの利活用に向けた検討事項
  • Questionnaire で収集したデータ(QuestionnaireResponse)は、そのままでは異なる Questionnaire で収集されたデータ同士での比較が難しかったり、検索が難しかったりするという問題を持つ。そのため、QuestionnaireResponse はあくまで生データとして保持しつつ、Observation 等の他の FHIR Resourse に変換してデータを保存することが一般的に推奨されている。SDC の Form Data Extraction には 具体的な方法が3つ示されている(Observation-based、definition-based、StructureMap-based)。
    JASPEHR でのデータ収集範囲を考慮すると、これら3つのうち Observation Resourse へのデータ抽出に特化した Observation-based 方式では対応可能範囲が不足する可能性があるため、definition-based 方式の採用が想定される。その場合は QuestionnaireJaspehr Profile に、SDC 3.0.0 で追加された questionnaire-itemExtractionContext を採用する等、Extractable Questionnaire の内容を取り込むことを検討する必要がある。
    また、QuestionnaireResponse からのデータ抽出責務をどのシステムが負うべきか、という観点について、JASPEHR では既存の電子カルテ等システムを活用するという特性から、フォーム入力完了直後に QuestionnaireResponse のデータをその他 FHIR resourse へ抽出するのは難しい(これを行う場合、各社電子カルテ等システムにて Form Data Extraction 機能をそれぞれ実装する必要がある)。従って、データが集まる中央で “QuestionnaireResponseExtract” オペレーションを実装しておき、各参加施設から QuestionnaireResponse を受け取った後にデータ抽出処理を行う、という運用が想定される。

成果物

本プロジェクトにおける 2021 年度作業の成果物は下記の通り。

(※注:Extension: Initial expression および、Extension: Calculated expression は SDC にて策定された Extension であるが、URL が有効ではなく、Profling 時に取り込めなかった。作業の都合上、ローカルで同一 Extension を作成したため、これらはTable of Contents 及び Artifacts Summary に含まれてしまっている。)