全ゲノム解析等事業

がん領域

国が策定している「全ゲノム解析等実行計画」に基づき、AMED革新的がん医療実用化研究事業において、関連施設から収集された検体を用いた全ゲノム解析と臨床情報の収集及びクラウド上での管理が進められている。令和7年度中には全ゲノム解析等の運用を担う組織として「事業実施組織」が発足し、将来的には蓄積されたデータを用いた研究・創薬に繋げる構想となっている。

難病領域

難病は、1)発病の機構が明らかでなく、2)治療方法が確立していない、3)希少な疾患であって、4)長期の療養を必要とするもの、という4つの条件を満たしている疾患を指し(平成二十六年法律第五十号:難病の患者に対する医療等に関する法律)、令和6年4月の段階で341の疾患が国により指定されています。これらの疾患は患者さんや家族の生活に長期にわたり大きな負担を与えますが、患者数が少ないなどの理由から研究がすすんでいないものなどがあり、公費による医療補助と研究支援が行われています。全ゲノム解析等実行計画における難病流域では「難病の早期診断」「難病の本態解明」「効果的な治療・診断方法の開発」を目的として事業を進めていますが、臨床情報の収集、および、診断された患者を登録するための「臨床調査個人票」の情報入力等にJASPEHRによるテンプレートが採用されています。

感染症臨床研究ネットワーク事業

新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、我が国の課題として、有事の際、迅速にワクチンや治療薬等を開発できる臨床試験体制の整備(臨床試験ネットワークの構築)の必要性が明確になりました。 これを受けて、令和5年度から「感染症危機管理に関する臨床試験ネットワーク構築および専門人材の育成に資する研究」が進められており、「平時」に求められる役割を整理し必要なリソースを特定した上で、迅速に臨床試験を実施するための基盤として臨床研究ネットワークの構築に向けて様々な研究が進められています。この研究の中で、臨床研究や治験を実施するにあたり必要となる調査票やCRFの迅速な配信と情報収集を実現する基盤としてJASPEHRが採用されています。

SIP 統合型ヘルスケアシステムの構築事業

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)は、内閣府が設置した総合科学技術・イノベーション会議(CSTI) にり、府省や分野を超え、科学技術イノベーション実現のための国家プロジェクトです。その課題の一つである「統合型ヘルスケアシステムの構築」事業は、現実世界で行われる医療をデジタル世界に写像する、医療デジタルツインを開発、構築を進めています。医療デジタルツインの実装により、医療・ヘルスケアにおける「知識発見」と「医療提供」の循環が自律的に促進され、医療の質向上、健康寿命延伸、医療産業振興、持続可能な医療制度に活用されることを目指しています。プロジェクトでは、医療・ヘルスケア課題に対するソリューションの「事業」化と、医療デジタルツインに必要な「技術開発」に取り組んでおり、電子カルテに記載される診療記録を、デジタルツイン上で容易に利活用できるよう構造化する手段として、JASPEHRテンプレートによる診療記録の記載とその情報の収集および活用の検討、必要な追加開発が進められています。(ホームページより一部抜粋)

JASPEHR Projectへの期待

JASPEHR Projectへの期待
全ゲノム解析等事業実施準備室 解析DC運営チーム長
東京大学医科学研究所副所長・教授
井元清哉

がんや難病等の患者さんの全ゲノム解析を行うことで、ゲノム医療の発展を目指す「全ゲノム解析等実行計画」が進んでいます。この計画では、患者さんの医療の精度を全ゲノム等データを用いることで飛躍的に高めると共に、同意を得たうえで解析したゲノム情報や診療情報などのデータを蓄積し、それらを活用した研究を推進することで新たな治療法を創出し、今までは治療法がなかった患者さんに新たな治療法を届け、将来的な「がん・難病等の克服」を目指しています。この目的は、ゲノム情報のみでは到底達成できません。詳細な診療情報が必要不可欠です。この事業では、診療情報の収集において、カルテ内に記載されている情報を効果的に活用することを目指しています。がんや難病の診療をおこなっている医療機関の電子カルテは様々で、保存されているデータの統一もなされていません。JASPEHR Projectによって、異なる電子カルテベンダーでも、カルテ記載の内容が共通に取り出すことが出来れば、全ゲノム解析事業も大きく進展するだけでなく、マルチセンターの診療情報を用いる全ての研究の精度が向上し、ひいては新しい医療が生まれることに繫がります。今後のJASPEHR Projectの取り組みに大いに期待しています。

JASPEHR Projectによる難病の創薬研究推進への期待
難病全ゲノム解析 臨床情報ワーキンググループ
聖マリアンナ医科大学 脳神経内科学 主任教授
聖マリアンナ医科大学 臨床研究データセンター センター長
聖マリアンナ医科大学 ゲノム医療推進センター センター長
山野嘉久

現在日本における指定難病は341疾患が認定され、多くの疾患において現場の医療従事者の努力のもと、個々の疾患レジストリが構築されています。また、「全ゲノム解析等実行計画」においては、同意を得た患者さんのゲノム情報を収集し、臨床情報と統合することで、難病の原因を特定したり、病態を解明したりすることで、新しい治療法を開発することを進めています。このようなプロジェクトを進める上では、いかに臨床情報を収集するかが重要となりますが、一つ一つの難病に対応した臨床情報収集システムを構築することは現実的ではなく、特定の電子カルテシステムや特定の臨床情報収集システムに依存しない共通の仕組みの構築が求められています。難病領域では、このような背景のもとJASPEHR Projectによる難病領域の臨床情報の収集システム構築を進めています。すでに難病の共通項目の入力テンプレートを作成しており、今後個別の難病のテンプレートの定義を進める予定です。また、従来紙で記録しFAXで送信していた臨床調査個人票についても、JASPEHRテンプレートでの運用を検討し、難病申請の電子化の推進と合わせて、同意を得た患者さんについて、その情報を研究に活用する予定です。今後のJASPEHR Projectの推進と発展に期待しています。

感染症臨床ネットワーク事業とJASPEHR Project
感染症臨床研究ネットワーク事業 臨床研究委員会委員長
国立国際医療研究センター国際感染症センター センター長
国立国際医療研究センター病院副院長
大曲貴夫

2019年末から始まったCOVID19のパンデミックは世界全体に大きなインパクトを与えました。日本においては、まだその実像がわからない状況下でダイヤモンドプリンセス号をはじめとした初期の事例の対応を進め、その後の治療や研究を通じて、徐々にその臨床像やウィルス学的な特徴を明らかにしてきました。NCGMではCOVIREGIと呼ばれるCOVID19の大規模な疾患レジストリを構築し、多くの医療機関・医師・関係者のもと実態解明と最適な治療法の探索を進めてきました、この取り組みは、新興再興感染症データバンク事業ナショナルレポジトリ(REpository of Data and Biospecimen of INfectious Disease:REBIND)を経て、次のパンデミックに備えた感染症臨床研究ネットワーク事業に引き継がれています。COVIREGIでは、EDCによって診療情報の収集をおこないました。これには多くの医療従事者の方々に、治療と並行しつつ臨床情報の入力を行っていただくという多大なご協力をいただきました。次のパンデミックでは、治療にあたる医療従事者の入力負担を減らすため、できるだけ電子カルテとの重複入力を避け、電子カルテに記録されている情報を活用する仕組みを構築します。JASPEHR Projectはこのコンセプトの中核に位置するものであり、今後起こりうる未知の感染症に対して、収集すべき臨床情報に迅速に柔軟に対応できるJASPEHRテンプレートを活用する計画です。このような環境の構築が進むことにより、パンデミック時の早期の治療法の確立、創薬・ワクチン開発に貢献することを大いに期待します。

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    プロジェクトの概要

    JASPEHRは、電子カルテベンダーに依存しない診療記録用テンプレートの作成と、テンプレートに入力された診療情報の共通形式での保存と抽出を目指しています。
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    JASPEHR連絡会議

    本プロジェクトの参画研究者、技術アドバイザー、参画企業などを掲載しています。JASPEHRに対応しているシステムや開発中の機能は、随時アップデートする予定です。
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    JAPEHR関連資料

    導入医療機関の一覧、導入に関わる費用、導入や活用のためのQ&Aなどを掲載しています。
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